昼寝スポット


只今現在、高校生活をたらたらと走っている僕の昼寝スポットといえば?

ずばり、屋上。
なぁんて、ベタを極めつけたような答えは期待しちゃいけない。
10人に僕の昼寝スポットを聞いたなら、授業中の机の上だろ、とか関心なさげに全員が答えるに違いない。
けれど、僕にはクラスの誰も知らない、ベストスポットがあるんだ。


季節は、初夏。
梅雨が明けたこの時期は、空は真っ青に眩しくて、本格的に夏が始まる少し前の期待が詰まったなんとも言えない季節。
生き生きとした緑色が空の青に映える。
僕らの生命が脈打つ。
夏はもう、手の届くところにある。

しかし、浮かれてばかりはいられない
この時期、高校生を待ち構えているもの。
期末試験。
夏休み前に待ち構えているボス的な存在。
なんなんだこいつは。
今まで何人の学生がこいつに向かって悪態をついたことか。

でも、本当は嫌なはずのこの試験期間、僕にはなんだか楽しかったりする。
いやいや、成績が良いからなんてことは、ない。
かと言って、試験期間って学校早く終わって楽ちん楽ちん、とか思ったりする訳でもない。
授業は確かに寝てるけど、そこまでダメダメ高校生じゃない。


じゃあ、何故って、そう、ベストスポット。





緩やかなスロープを降りて。
青い芝生が敷き詰められた地面を歩いて。
サァッと流れる風を両手で受け止めて。
ごろんとそこに寝転がる。

僕の上に立つ、青空。
包まれて、包まれて。



なんというか、河原のような空間。

普通の河原なんかと比べるとかなり小さい、というか狭い。
コンクリートで舗装されていて、芝生が植えてあるところもある。

人も全然いなくて、なんだか閉ざされていて、それでいて開放的な空間って感じだ。


僕は最近、ここによく来る。
誰もいない河原のコンクリートに横になれば、僕の視界を埋めるのはただただ青い空と白い雲。
夏の川独特の風。
爽やかに僕の髪を揺らす。
試験期間は学校が早く終わるから、ここに来れる。
昼じゃないとダメなんだ、ここは。


体が空に吸い込まれて、風に流され、雲のように、ただ、あてもなく。

そして、いつの間にか僕の意識は僕自身の中へと入っていく。
要するに、寝てしまう。

目的があるわけじゃない、別に寝たいわけでもない。
ベストスポットだから、僕は来るんだ。



試験最終日。

試験から開放された僕は、今日もまたそこに居た。
あーあ、今回もやっちまったなぁ、とか海は嫌いだからプールにしよう、とか。
いろいろ考えてるうちに、またまどろみの中へ入ってく。


なんとなく感じる。
風とか太陽とか青空とか、あと、夏とか。


ゆっくりと目を開けた僕が見たのは、まだ眩しい太陽と青い空。

「まだ、昼間なんだ」

寝転がった体勢のまま、なんとなく空に向かって両腕を伸ばす。
手のひらを広げてみる。
何か掴めるわけじゃないけど、ドラマとかでよくやってる、こういうの。
そのまま、んーっと伸びをしようと起き上がったところで、僕の体は飛び跳ねた。

「どわっ!!」

僕が起き上がったすぐ横に、女の子が座っていた。

「あ、起きたね」

制服を見る限り高校生。
僕の行ってる学校とは違う高校。

「ちょ・・え・・えぇ!?」

僕は何に混乱してるのか、バカみたいに驚くばかり。
彼女はこちらに体を向けて座りなおすと、口を開けて固まっている僕に微笑みかけた。

「いいねぇーここ。教えてくれてありがと」

「は・・?」

教えたっけ?というか誰ですか?
そんな疑問と訳のわからない驚きが頭の中で渦を巻いている僕をほっといて、彼女は立ち上がって伸びをした。

「んんーっはぁ」

いやそんなに爽やかに伸びとかされても。
ホントに誰ですか?
まぁ、いーか・・?
いや・・よくないか。

「あーえっと・・誰?」

ようやく落ち着いた頭でいろいろ考えた結果、聞いてみた。

その瞬間、彼女は座ったままの僕の手を引っ張り、僕を立ち上がらせる。
触れ合う、手。
風が僕と彼女の髪を撫でていく。
やっぱり、夏は青空と共にそこまで来ていた。

まぁ・・いーや。
なんだかそういう感じな気分になった僕を少し横目で見て、彼女は言った。
少しだけ照れくさそうに。


「ここって、ベストでナイスなスポットだね!」