オレは1週間ほど前、私立の高校に通うために寮に入った。
寮といってもマンションみたいな感じで、他の部屋との交流はあまりない。
しかも、築何十年というから相当ボロい。
いっそ寮ではなくアパートと呼べばいいのにと思うくらいだ。
だからオレが大声で話すと隣の部屋に筒抜けなわけで。
というか隣の部屋の音がオレの部屋に筒抜けだ。
そして、オレの部屋に入ってくる隣の部屋の音とは、ピアノの音。
なんの曲かは知らないけど、多分バッハとかベートーベンだろう、と思う。
最近暇なときはこの音ばかり聴いている。
学校の入学式はまだだし、友達もまだいない。
街に出る気にもならないし。
もともと小心者のオレだから、自ら友達を作ろうとは思わないし、賑やかな場所も好きじゃない。
だから、そういう暇なとき、オレはベッドに寝転び、この音を聴く。
そしていろいろ考える。
隣の奴はどんな人間だろう。
寮だから一緒の学校に違いない。
ピアノだから女の子だろうか、と。
そうしていつの間にか寝てしまうのだ。
オレの生活にこの音は欠かせなくなった。
何故だかすごく和む。
今まで忘れていたやさしさを取り戻せる。
オレの狭い部屋に流れ込むこの音色。
いつの間にかオレの一部となっていた。