天井の蛍光灯、汚れたカーテン、食器の溜まった台所。
 ある朝、男はハッと目が覚めると、見慣れた自分の部屋を見回して思った。

 「この世界は夢なんじゃないだろうか」

 変わらない日常。繰り返しの毎日。
 何も変われない自分がいるのに、どこかへ堕ちていくような感覚。

 「この世界での死が、現実での夢の終わりなんじゃないか」

 確かめたい衝動に駆られた。

 この世界を見回してみる。
 なんとなく生き、なんとなく金を稼ぎ、なんとなく物を消費する。
 大切な人間関係など、存在しない。

 「たとえ、これが俺の妄想でも、世間に自殺と扱われてもいいんだ」

 未練はなかった。




 男はビルから飛び降りた。


 プツン、とテレビのブラウン管が消えるような感覚を感じた。






 ある朝、男はハッと目が覚めた。

 「夢・・・?」

 妙にリアリティーのある夢だった。
 男は今まで見ていた夢の内容をしっかりと覚えていた。

 「やっぱり・・あの世界は夢だったんだ・・」

 安堵の溜め息を吐こうとした瞬間、言いようのない不安感に襲われた。

 天井の蛍光灯、汚れたカーテン、食器の溜まった台所。
 夢の世界と何も変わらない。

 「まさか・・この世界も夢なんじゃないだろうな」


 男は着替えるとすぐに、ビルへ向かった。







 男はハッと目を覚ますとすぐに、部屋を見回した。
 天井の蛍光灯、汚れたカーテン、食器の溜まった台所。

 「またか・・!もう何度目だ・・!」



 男はビルへ向かいながら思った。
 「少しでいい。少しでも違った世界で目が覚めるなら、たとえそこが夢でもかまわないんだ」







 隔離病棟。
 治る見込みのない患者が集められる。


 「おじちゃんはどうして寝てるの?」

 男の子が、その母親らしき人物に聞いた。

 「夢をね・・見てるんですって」

 母親はゆっくりと息を吐き出すように、答える。

 「夢?どうして?」

 母親は寂しそうに笑った。

 「長い、とても長い夢よ。もう五年も夢を見ているの。きっと、今も夢の中でもがいているのよ・・・」

 男の子は、静かに寝ている男の顔を覗き込んだ。
 穏やかな顔をしていた。

 「おじちゃん・・かわいそう・・」







 プツン、とテレビのブラウン管が消えるような感覚と共に男は目を覚ました。
 天井の蛍光灯、汚れたカーテン、食器の溜まった台所。

 男は頭を抱えた。