世の中とは、狭いものだな。
私はカウンセリングの仕事を辞めた。
理由なんて無い。
八島紀子を救えなかったからでもない。
ただ、人を救えぬこの両手をいつまでも人の心に突き刺す訳にはいかなかった。
世の中とは、狭いものだな。
娘の墓参りをしながら、そう思った。
もう何回目だろうか。
こうして娘の命日を迎えるのは。
八島紀子が死んでちょうど3年。
娘が死んで14年。
月日の流れは速い。
八島紀子に家族はいたのだろうか。
彼女が何処に眠っているのか、私は知らない。
だからこうして、彼女の分も娘の墓に手をあわす。
風が私の白く染まった髪を撫でる。
娘の名は、優子といった。
〜END〜