学長が帰った後、私は封筒を開けてみた。
警察も手を出さなかったらしい。
封は切られていなかった。
中には、私宛の手紙。
それ以外は何もなかった。
「北島先生。
まず、ありがとうございました。
今度は私が闇を語る番ですね。
出来れば明日、直接訪ねたいのですが、色々あるので手紙で失礼します。
私の闇は、
小学生の時にです。
親友である女の子を殺した。
その子は優子といいます。
とても優しくて、親切で。
友達のいない私の親友になってくれました。
でも、私は殺した。
殺してしまったのです。
あの日以来、私の心に闇が被さり、じりじりと私の中で燃えているのです。
戻れるならばあの日に・・・。
叶わぬ願いです。
短くまとめてしまいましたが簡単に言ってしまえば、これが、私の闇です。
最後に、先生ありがとうございました。
そして、ごめんなさい」
手紙の内容はこれだけだった。
手紙を読み終わった私の頭にある考えが浮かび上がった。
きっと彼女は闇を抱えきれなかったのだろう。
彼女はその闇に向かい合おうとしたものの、その深さに耐えれず、呑み込まれてしまったのだろう。
彼女の身を焼いたのは己の内から燃え出した、炎。
だから、彼女は焼死してしまったのだろう。
こう考えないと説明がつかなかった。
有り得ないかもしれない、けれどもこれが真実に一番近いような気がしてならなかった。
彼女は殺したと言う。
実際に殺したのかもしれないし、そうでないのかもしれない。
どちらにしろ、当時の幼い彼女が抱えるにしてはその闇は深すぎた。
しかし、彼女は11年間も耐え抜いたのだ。
彼女は深すぎる闇を抱えようとした。
彼女が「抱えている」という言葉にこだわったのは、闇に呑み込まれないための手段だったのかもしれない。
彼女の最後の抵抗だったのかもしれない。
私の部屋を昼の明るい陽の光が照らす。
白く照らされた部屋の中で私は皺の増えた手をただただ眺めていた。
そして、何故か涙が一筋、頬を伝った。