空間が止まる。
 私の周りの全ての流れが止まった。
 それはいつかに体験したような、事情を呑み込めず、ただただ流れる時間を空白が埋めていくような。

 再び空間が動き出したとき、私は言いようの無い不安に呑まれそうだった。

 「二週間前とは、何日で・・・?」

 「11日です」

 やはりだ、彼女が最後に私の部屋へ来たのが、10日の午後。
 そして、次の日には彼女は・・・。

 「死因は・・・・?」

 恐る恐る尋ねる。

 学長は答えた。
 「焼死だそうです。
 彼女の住むアパートは全焼らしくて。
 警察が詳しく調べているそうですが、発火したのは彼女自身から。
 そのため、自殺という方向だそうです。
 しかし、彼女の周りにはライターなどの道具は見つからず、警察も首をかしげているそうです」


 瞬間、私は思い出した。
 彼女はこんなことを言ったことがあった。

 「私の中の炎は未だ燃え続けているのです。
 11年という年月が過ぎ去った今でも未だ黒く、暗く、燃えているのです。
 きっとその炎はいつしか私をも焦がすようになるでしょう。
 そして炎に焦がされた私は灰へとなってゆくのです」

 身震いがした。
 偶然かもしれない。
 けれど、彼女がこの言葉をいつ言ったのかを思い出せないのが、無性に怖かった。

 なかば放心状態になっている私に学長は静かに言葉を発した。

 「ショックなのはわかります。あなたの患者、言わば生徒ですから」

 ショックもある。しかし、それ以上に不可解だった。
 あの彼女は良く言えば不思議、悪く言えば不気味な人だった。
 あの真っ黒な黒髪が彼女の存在を重く感じさせ、無表情な顔から彼女の言う「闇」の存在を漂わせていた。

 「この封筒は・・・・?」

 差し出された封筒に目を移すと、学長はまた首をかしげた。

 「彼女の部屋の机に置いてあったそうです。
 なんでも、北島先生宛てだそうで。
 それで、不思議なのがアパートは全焼したのにこの封筒だけが焼けずに残っていたそうです」

 「・・・そうですか。わざわざありがとうございます。」




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