「何故、あの子でなければならなかったのだろう。
 あんなにいい子で、あんなに愛らしくて…。
 世の中にはクズのような人間はたくさんいる。
 何故そいつらではなく、娘だったのだろう。
 そんなことばかり考えていた。

 カウンセラーとしての仕事をしている今でもこの気持ちは失われていない。
 気持ちの整理は出来た、娘の死も受け入れられた。
 自分自身の笑顔も取り戻した。
 しかし、この疑問はこの先一生、消えることなく私の心に影を落とすだろう…」


 このことを他人に話すのは初めてだった。
 だからといって、涙が頬を伝ったりはしない。
 もう自分の中では整理しきった問題なのだ。

 「・・・・・・・」

 話が終わっても、彼女は無表情のまま、私を見据えていた。
 何か考えているのか、彼女からは話し出しそうになかったので私は口を開いた。

 「私は君に哀れんでもらうような闇との向かい合い方はしていない」

 「そうみたいですね。さすがカウンセラーの先生です」

 無表情の彼女はフッと顔を伏せて言った。




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