「私は今年で51歳になる。
 結婚もしている。
 結婚したのは35年前。
 そして、結婚から4年後、31歳の時に娘が生まれた。
 それから子供はつくってないから一人娘ということになる。
 可愛かった。私なりの愛情もたくさん注いだ。
 私の生活は娘を中心に成り立っていた。

 娘はすくすくと育って、小学校にあがった。
 一般の小学生と比べると甘えん坊で、よく慕ってくれていた。
 その時の私は会社勤め、サラリーマンというやつだ。
 楽しい仕事ではなかったが、家に帰ったときに見る、娘の笑顔が私を癒してくれた。
 とても、嬉しそうに笑うんだ。
 『おかえり』と言って手をつなごうとしてくれる。
 決まって私はそんな娘の頭を撫でる。
 そして、娘はまた笑顔を見せてくれるんだ。
 娘の笑顔を守るためなら命だって惜しくないくらいだった。
 愛していたんだ。


 しかし、幸せは続かなかった。
 事故だったらしい。
 学校の帰りに川で遊んでいて、そのまま家に帰ることはなかった。
 一緒に遊んでいた子は慌てて大人を呼びにいってくれたそうだ。
 だが、遅かった。
 大人が駆けつけた時、娘はもう水の上には居なかった。
 娘が助けを求めている時に、私は黙々と仕事をしているだけだった。
 よく言う虫の知らせなんてこれっぽっちも感じれずに。
 娘の笑顔は凍りついたように私の心の中にこびり付いた。

 泣いた。
 泣きつかれるくらい、泣いた。
 泣くのをやめた頃には虚しさだけが心を占めた。
 しかし、私は強くあらねばならなかった。
 私と同じくらい悲しんだ人、妻を支えなければならなかったからだ。
 あの日以来、妻は心を塞ぎ、瞳の色は失われた。

 だから、カウンセラーになった。
 妻を、そして自らを、悲しみの淵から救い出すため・・・。」




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