「名前は?」
ソファに礼儀正しく座っている彼女に私の問いは伝わったのだろうか、彼女は無言のまま私の目を見つめている。
「いや、だから・・」
私が痺れを切らして同じ問いをかけようとしたその時に、彼女は唐突に口を開いた。
「先生の名前から教えてください」
やはり無表情で言葉を発する彼女に溜め息混じりに私は素直に応じる。
「私は北島修二。カウンセラーだ」
「そうですか。私は、八島です」
彼女の第一印象は奇妙な人間だな、というものだった。
とても学生には見えぬ得たいの知れなさと真っ黒の髪の毛から漂う影の存在がそう思わせたのかもしれない。
変な人間が増えたもんだな。
まだ学生なのに若さが感じられない。
変な世の中になったもんだ。
そう思った。
しかし、だからこそカウンセラーという職業が存在するのだろう。
そうもまた思った。
「では、話を聞こうかな」
まだ昼過ぎの明るい陽の光が差し込み、まだ整頓しきれていない私の部屋を白く染める。
そして、その白さとは正反対にも感じられる1人の女を正面に見据えて私のカウンセリングは始まった。
「まず、何か、人間関係の悩み事でも?」
「いいえ」
「では、就職などの悩み?」
「いいえ」
「じゃあ何に悩んでるんです?」
「私は悩んでなんかいません」
一瞬、冷やかしかとも思ったが彼女の表情がそうは言っていなかった。
もっとも、ただの無表情なのだが。
「なら何故カウンセリングを…?」
「私は、悩んでいるのではありません。抱えているのです」
「・・・何を?」
一瞬の短い沈黙。
重い空気に耐えながら辛抱強く答えを待った。
そして、
彼女は答えた。
「・・・・闇を」