私の中の炎は未だ燃え続けているのです。
11年という年月が過ぎ去った今でも未だ黒く、暗く、燃えているのです。
きっとその炎はいつしか私をも焦がすようになるでしょう。
そして炎に焦がされた私は灰へとなってゆくのです。
彼女は私にこのような言葉を言ったことがあった。
いつ、どこでこの言葉を聞いたのかは覚えていないが、この言葉と、それを紡いでいる彼女の凛とした口調は私の頭にはっきりと焼きついている。
私が彼女、八島紀子と出会ったのはほんの1年弱前の事だ。
最初、彼女との関係はカウンセラーと患者というごく普通の儀礼的なものだった。
初めてカウンセリングに訪れたとき、彼女は20歳、私は51歳。
ちょうど親と子のような年の差であった。
何故、彼女が31も年上の私のような男に自分の闇を吐き出したのかは今となってはわからない。
もっとも、それは私がカウンセラーで彼女が患者だったというだけの理由なのかもしれなかった。
当時、私はある大学で学生達に対するカウンセリングの仕事を請け負っていた。
給料は高いとはとても言えないが私の母校であった。
そして、これからの未来を背負うであろう若者の手助けをしてやろうなどという自己満足にしかすぎない理由もあって引き受けた。
しかし、引き受けたもののカウンセリングに訪れる学生などというのは皆無といって良かった。
それもそうだろう。
悩み事の相談というのは気の知れた友達にするだろうし、ましてや見ず知らずの男にわざわざ相談に来る人間も少ない。
しかし、カウンセラーという仕事が存在するわけだからカウンセラーである私を必要とする人間もごくわずかでもいるということになる。
そして、そのごくわずかの人間が彼女、八島紀子であった。
いきなり、扉がガチャリと開いたかと思うと、女は表情の無い顔で私の机に歩いてきた。
カウンセリングに訪れる学生の少なさによる退屈をだらだらと潰していた私はいきなりの訪問にびっくりし、あわてて椅子に座りなおした。
「カウンセリングの先生ですね」
やはり表情の無い顔で女は言った。
「いかにもそうだが。君はカウンセリングを?」
あわてて取り繕った態度で私は静かに聞いた。
「はい」
「そうか・・。では、話を聞こう。そこのソファに腰掛けて」