「あ・・・・」
また、彼女が固まる。
騒がしい街の流れの中で、二人だけが違う世界にいるみたいに静かに立ち止まっていた。
流れゆく人々はそんな二人を横目で追い越し、また自分のすべきことへと早足で歩いていく。
どれだけこうしていただろう。
英多には永遠にも感じられる時間が流れていた。
そして、彼女は口を開いた。
「ごめんね・・・。私、今好きな人がいて・・・」
「・・!」
「だから・・・。付き合うってことは出来ないの。ごめんなさい・・」
彼女は伏し目がちになりながら答えた。
英多はその言葉を一言一言飲み込み、フラれたんだと、理解した。
「こ、こっちこそ。ごめんね。急にこんなこと言って・・」
ふっきるように首を振りながら英多は言葉を吐き出した。
そして、またごめんねと言い、逃げるように立ち去ろうとする。
「待って!」
背中を向けた英多に彼女の声が投げかけられた。
振り向いた英多が見たのはやさしい微笑の大好きな彼女の顔だった。
「よかったら。名前教えて。私は由紀」
「えっと・・英多」
「英多くん。ありがと。私こんなこと言われたの初めてで・・ホントごめんね・・」
「うん・・・」
「じゃあ、ね。もし今度会えたら友達になれるといいねっ!」
そうとだけ言うと彼女は手を振って、去っていった。