帰り道。
 空は赤く染まり、人々は夕方のあわただしさの中で早歩きをしている。
 そんな中、ゆっくり歩く学生が三人。
 もっともそのうちの一人は緊張でまともに歩いているという状態ではないが。

 「じゃあオレ達は向こうから見てるからがんばって!」

 「まぁ、がんばれや!」

 「ありがと・・・。」

 「・・今から死にますって感じやな・・・」

 「・・・。とりあえず、いってくるよ・・」  英多は少しだけ微笑むと電柱に身体を預けて告白の相手を待ち始めた。

 つまり、今日は決戦の日。

 心の準備は十分できた。何を言うかもちゃんと練習した。
 あとは、勇気だけ。
 そして、その勇気もあいつらにもらった・・はず。
 あとはやるだけだ。


 待つこと三十分。

 「あ・・!」

 英多が小さく声をあげた。
 どうやら目当ての彼女が来たらしい。

 「ヒロインの登場ですってか」

 「あ、可愛いじゃん。見る目あるな、英多」


 茶というより深い赤茶色のセミロングの髪。
 優しそうな表情。
 顔ではなく雰囲気が、と英多の言葉の意味がよくわかる。
 可愛い子だった。


 彼女はどんどん近づいてくる。
 彼女が一歩歩くたびに英多の心臓は大きく脈打った。
 とくん、とくんという音が耳まで聞こえてくるようだ。

 ―――がんばれ、やれば出来る。

 心の中で呪文のように唱え英多は彼女に向かって歩き出した。
 少しずつ彼女との距離が縮まっていく。
 長い長い時間が流れたように思えた。
 彼女との距離はほんの僅かなものになった、その時。

 「あ、あの・・!」

 英多は声をかけた。

 「え・・・?」
 彼女が不思議そうに目線を英多に移す。

 二人の間の一切の動き、流れが止まった。

 「え、えっと。あ、あなたと・・・」

 「えと、何ですか?」
 上手く言葉が出てこない英多に、また彼女が不思議そうな顔をする。

 ―――やれば出来るんだ。

 「あなたのことが、ずっと好きでした・・!」

 ―――出来るんだ・・!

 「え・・・?」
 彼女はびっくりした顔を見せ、固まる。

 「一目見たときから。えっと、つまり一目惚れ・・・」

 「え・・・」

 「そ、それで。出来たら付き合ってもらいたくて・・!」




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