「―――で」
英多も息を整え、落ち着いたところで、床に座りなおした佑也が切り出した。
「誰に恋したって?」
「誰って言われても・・・」
英多は顔を赤らめうつむいている。
うぶいなぁとか胸中で呟きなが佑也が重ねて聞く。
「じゃあ名前は?」
「・・・知らない」
「は?何で好きな子の名前知らんの?からかうなや」
思わず啓介が言う。
が、やはり英多は顔を赤くしてうつむいたまま。
「じゃあ、どこのクラス?」
「・・・たぶん違う学校」
「なんて学校?」
「…それも知らない」
「・・・・・・・」
黙り込む佑也と啓介。
しばらくの沈黙のあと、同時に口を開く。
「それって・・・」
『ただの一目惚れ?』
二人の声が見事にハモった。
「うん…」
そして英多はコクンと首を縦に振るのだった。
―――放課後
学校からの帰り道、駅へ向かう途中。
コンビニで買ったパックジュースをストローでズーズー飲みながら二人が聞いた。
「なるほど、学校行く途中いつもすれ違う子がおって、それで好きになったんやな」
「それで、今日はいなかったから来るのを待ってて遅刻した、と」
「うん。あと帰りの電車もいつも同じ・・・」
「ストーカー・・・。声かけてみろや」
「きっと相手にされないよ・・・」
「そんなんわからへんやんか!」
「まぁまぁ、野球バカは黙って。そんなに可愛いの?」
「顔が、というか雰囲気が・・・」
「あぁ、そうなの。いいじゃん。応援するよ」
「青い春やん・・・」
空はもう夕焼けが近くなっていた。
夜の近づいたうすく青い夕暮れの中で三人はゆっくりと歩いていた。
ついさっきまで暑かった日差しはどこか遠くにいき、心地よい風が体を包む。
佑也は空になったパックジュースをゴミ箱にポイッと捨てた。